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ドラマの戦士、イ・ジェギュ監督 [ベートーベン・ウイルス aboutクラシック]

いつも色々と記事を紹介しているソ・ヒテ教授の著書「クラシック・トーク」より、以前にもご紹介した「私が見た〈ベートーベン・ウィルス〉監督、そして俳優たち」の中から、今回は監督のことが書かれた文章を拙い訳ですがご紹介いたします。

ここでは、撮影中とそうでない時では全く別人のような監督のご様子が色々と紹介されています。あれだけの作品を作り上げる訳ですから、大変な集中力でドラマに全霊を注がれていたのだと思います。そんなイ・ジェギュ監督を兄のような優しさで見守るソ・ヒテ教授の姿が目に浮かぶような内容です。これまでにもご紹介した中に、音楽が急に必要になって慌てたなどの苦労談がありましたが、今回もまるで戦場のような現場の様子が書かれていました。

また、以前別のところでもご紹介した第9話の誕生日シーンに関するエピソード(記事はこちら
)がここでも書かれています。今回はその後日談も少しありました。この出来事はこのドラマに関わったスタッフ全員にとって記憶に残る良い思い出だったようです。

ドラマの戦士、イ・ジェギュ監督

イ・ジェギュ監督は一言で言うと、「ドラマの戦士」だ。あの情熱はどこから出てくるのか。よく作られたドラマの裏には、イ・ジェギュ監督のような名演出家がいるという印象を強く持つようになる。

私はこんなに頭が良い人を初めて見た。その頭に全てのフィルムが全部入っているが如く感じられた。頭もそうなのだが、いかなる状況でも演出する能力は感嘆詞がいくつも飛び出してくる位だ。ここは俯瞰で、ここでは照明をこのようにして、ここではバストショットで……。撮影して照明を使って音楽を用いる、適材適所の場所と時間を非常にすばらしく演出した。今回のドラマを通して何より驚いたことは、イ監督の粘り強い執念と推進力だった。

睡眠を取らず撮影しても、次の日の明け方にまた「レディー、アクション!」と叫ぶイ・ジェギュ監督。

演技者だけでなくスタッフたち、数多くの演奏者たち……多くのこれらの人々の苦しみと不満が噴出す状況。髪を洗えなくて、エアコンをずっとつけていると髪がくるくると回る状況……。少し休めば良いのだろうが、しかし「レディー、アクション」を叫ぶイ・ジェギュ監督。

彼の耳にも不満と苦痛の声が聞こえているはずなのに、彼はまるで耳が聞こえなくなった人のようにふるまった。驚くべきことは、私が知るイ・ジェギュ監督は絶対に毒のある人ではない。本当に善良で明るい人だ。それでもやむを得ず、追い込まなければならない状況で押し進める、その推進力に私は驚いた。

そんな点で音楽の指揮者とドラマの演出家は似ていた。ところで私は演奏者が疲れていたり苦しければ、その位で練習を終える部分がある。いくら重要な公演でも……。しかしイ監督は絶対にそれはなかった。苦しいことを絶えずして良い作品はできないということだ。そういう徹底したところを私はイ監督から学んだ。

もちろん荒唐なこともあった。フロアディレクターの一人が連絡を絶って姿を消してしまった。耐えられなかったということだ。

またこんな事もあった。撮影場で録音した音楽を使えなくなり、現場で録音をしてそれを付けなければならない状況があった。私は気に入らなくて、もう一度だけ録音しようと言った。私も音楽においては欲があるということだ。しかし撮影する分量は多く残っていて、制作する時間は無くて……。その状況で急にイ・ジェギュ監督が大声を張り上げた。
「うあぁぁぁぁっ~」

私は非常に驚いた。私も指揮者なので、音楽では総監督なのに、団員たちがみんないる所で私にどなるとは……。しかしその状況を見ると超人ハルクのような大声を上げる監督の気持ちも理解できた。

その日撮影が全部終わり、出るとイ監督が私に謝った。
「兄さん、さっきはすまなかった。」

ドラマは撮影場がさらにドラマチックだ。こんなエピソードはまだかわいい方だ。わめいて怒鳴って、驚愕の状況が毎時間毎分繰り広げられた。

カピョン(プチ・フランス)で撮影していた日だった。助監督に音源を渡したのだが、その音源を使えなくて他のものを使うということだ。その問題で互いに話し合っているとリハーサル中にその声が聞こえたみたいだ。イ・ジェギュ監督が怒鳴った。
「おい!リハーサルしているのが聞こえないのか?」

その声が私の心にも痛く突き刺さった。その時、イ監督が助監督の横に私がいるのを見てすまなさそうに言った。
「うあ~、なぜまたここに兄さんがいるの?」

助監督も怒っていたのか監督がいないところで台本を放り出して嘆いた。どうすれば…。一歳でも年上の私が助監督をなだめなければならなかった。

ところでイ・ジェギュ監督にもう一回驚いた点は、数多くの助演級演技者たちからオーケストラ団員たちの名前までことごとく覚えていることだ。スタッフ達を含めた助主演級演技者たちはおおよそ200名にのぼる。ところで、彼らの名前をどうやって全部覚えるのか。頭が良いからか? いや、それより人間に対する愛情ではなかろうか?人間に対する心の深いところから湧き出るヒューマニズム、愛……。彼の中にあるそれが彼のドラマを名作品へと作ることではないかと思う。

イ・ジェギュ監督は本当に夜も寝ないでドラマに縛られていた。家にも帰らずどうしてあんな行動をするのかと思えるほどだった。なぜドラマ演出を「ノガダ(土木作業員)」と表現するのかが分かるようだった。そんな中イ・ジェギュ監督の誕生日を迎えるようになった。

9話放送分にカン・マエの誕生パーティー場面を撮り終えて、いくらも経っていなかった頃だった。

ドラマの内容はこうだ。団員たちが誕生パーティーを開いてあげるとたちまちカン・マエの目の周囲が赤くなった。視聴者たちも今にもほほえましくなろうかという時、急にカン・マエが言う。
「今日は私の誕生日ではない!」

陰暦の誕生日なのに陽暦の誕生日を知って祝ってくれる団員たちに、彼の性格のまま言うカン・マエ。その日のドラマは本当に暖かかった。傲慢とプライドと我執でぎっしり詰まって、乱暴で荒唐な台詞を言い捨てるカン・マエが初めて暖かい愛を感じて弁解する姿を見せてくれた場面だった。

その場面を撮影しながら演技者達とスタッフたちがイ監督に教えないでびっくり誕生パーティーをしてやろうと作戦を立てた。イ・ジェギュ監督のびっくり誕生パーティーを計画した。徹底的に秘密を守って、イ監督は全くその事実を知らずにいた。

撮影場所の畜舎で撮影をしている途中12時の鐘が鳴ったとき、オーケストラが誕生祝賀の音楽を演奏した。監督は撮影場で突拍子もない音が聞こえてくると、カッと大声でどなった。
「何やってんだ~!」

ところがよく聞くと自分の誕生祝いの曲ではないか。イ監督は頭をペコペコ下げながら「ありがとう、ありがとう」と言い感激していた。その時明かりが消えてイ監督の夫人と子供たちが火をつけたバースディケーキを持って入ってきた。イ監督が家にも戻らずに連日徹夜撮影をしているので、家族にこっそり連絡して撮影地へ来ていただいた訳だ。イ監督は急に夫人と子供たちが現れた途端、おいおいと泣いてしまった。皆、粛然となった瞬間だった。

その後イ監督はこんなことを言った。
「もしあの時のあれがなかったら、私はうつ病にかかっていただろう。」

そう言いながらも後でカン・マエの誕生日シーンを編集しながら、団員たちのびっくり誕生日パーティーに照れくさくなったカン・マエが「今日は私の誕生日ではない!」と言う場面でイ監督が言った。
「くそ~、私もあのようにカッコよく言えばよかったのに……なぜおいおいと泣いてしまったのか?全く!」
涙までみせるようになったことが照れくさかったのだ。

苦労しながら撮影する間、なぜ楽をしたくなかったのだろうか。なぜ家族に会いたくなかったのだろうか。なぜ大声で叫びたくなかったのだろうか。わかって見れば、か弱い完璧主義の演出家イ・ジェギュ監督。彼は人間的な魅力にあふれる人物だ。男性から見てもあの友人は素敵だ。良い。こんなお気に入りのあの人イ・ジェギュ監督を知るようになったという事一つだけでもわたしは十分に幸せ者だ。

【ソ・ヒテのクラシック・トーク ベートーベン・ウィルスより】


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真琴

花かんざしさん、こんにちは~♪

なんて素敵な記事なんでしょう!掲載ありがとうございます!

ちょっとイ・ジェギュ監督に恋してしまいそう~♪(←もしもし?)ほんの数分の間お会いしただけでしたが、こちらの目をまっすぐに見てなにかをとらえようとした姿が思い出されます。 スタッフたちが一丸となってつくりあげるドラマ、その指揮官は本当にすばらしいひとだったのですね。 それからソ・ヒテ音楽監督との関係も本当にすばらしいですね。 

最近、不滅のイ・スンシンを少しずつ見はじめましたが(まだ一話、でもおもしろくてびっくりです。戦争ものが苦手で敬遠してました。もっと早くみればよかったです)ますます、ペバにのめりこみそうです。

ところで、この間のフェスティバルの受賞時の写真が載ってました.
ジアちゃんとツーショットがうれしいです。すでに、後存知だと思いますが・・。
http://www.east-01.com/26618.html
by 真琴 (2009-11-02 17:24) 

花かんざし

真琴さん、こんばんは♪
コメントありがとうございます。

実はこの記事を訳していたのは、先日の上映会よりも前でした。
訳しながら色々なエピソードを知り、やはり監督はちょっと気難しい雰囲気の方なのかしらと想像していましたが、実際の印象は違いましたね!本当に素敵な方でした。

ご紹介のサイト、初めて知りました^^
さすが検索の達人!ありがとうございます。

話がそれますが、ついでにカン・ドンウォン氏の新作映画「チョン・ウチ」の動画も見てきました! ちょっと観たいなと思っている映画なので嬉しかったです!
소개해주셔서 정말 감사합니다^^

by 花かんざし (2009-11-03 22:47) 

mim

花かんざしさん、こんにちは♪
ほんとに素敵な内容ですね!!もう、泣きそうになりました~
特に誕生日のところ。
こんな文章を読んでいたら、そりゃ逢いに行きたくなりますよね~
そして、ソ・ヒテ音楽監督も素敵だな~と思いました。
彼にも逢ってみたいですよね?!
次回はどんな作品を撮られるんでしょう。楽しみです。
そして、私のブログにも書いてますが、スカパーのアジドラでもベバ放送
決定です!!
これでまた、ベバファンが増えますね!!
これからもまだまだこのドラマの素晴らしさ、そして音楽の素晴らしさに
共感する人が増えるよう、ウィルスが蔓延(笑)するよう、祈っています。
こちらに遊びに来られる方もいらっしゃるでしょうね~

by mim (2009-11-04 12:21) 

花かんざし

mimさん、こんにちは♪
コメントありがとうございます。

この文章を訳している時、まるでその時の情景が目に浮かぶようでした。
台本に書いてあることを実現するということは本当に大変なことでしょうね。
制作現場では色々な、細々した問題を一つ一つ解決しながら、撮影を進めていたのでしょう。
その指揮をとっていた監督のドラマへの強いこだわりや絶対に妥協しない部分が、完成度の高いドラマに仕上がったのでしょうね。

ちょうど一年前はドラマ終盤で、寒さと過密スケジュールの中、撮影をしていた頃なんですよね。
思い出すとなんだか私まで涙が出てきますよ~~。

CSでの放送予定の情報ありがとうございます!
ちょっとアジドラのページを見に行ったら、なんとイ・ジェギュ監督の代表作「チェオクの剣」(原題:茶母)も放送しているのですね!

「ベバ」のファンが日本でこれからますます増えることを私も願っています^^♪

by 花かんざし (2009-11-04 14:28) 

ppyy

花かんざしさん こんにちは。
私も読みながら涙が出てきました。
ちょうどレンタル吹替版を最終回まで見たところでした。
今の季節の空気感と同じなので より心にフィットしてきました。
ガチョウの夢の曲を背景に 畜舎を片付けているマウスフィルのメンバーたちの表情と この記事でのスタッフさちの苦労とが重なって見えました。
演奏シーンや BGMのクラシック演奏曲が出るたびに編集や演奏にかかわった人のがんばりも浮んできます。
空や花を入れた画面の数種のアングルを見ると 監督の脳内に こうやって画面をつないでいくんだという設計が実現してできたものなのね~と思うこともできました。

創作中の監督が追い込まれるギリギリの精神状態に
ヒテ教授たちもとまどいながら理解しながら 対応し見守っていった大変な状況も わかってきました。時間の余裕がまったくない中で このような作品をしあげたということに改めて感心させられます。
花かんざしさんが苦労されて訳して下さって ヒテ教授の視点からの興味深いお話がいくつも聞けて感謝しております。大変だと思いますがこれからもお待ちしてます(?)
by ppyy (2009-11-05 09:16) 

ppyy

続いて申し訳ありません。
昨日 花かんざしさんのこれまでのベバ関連記事と 読者のみなさまのコメントを印刷させていただき じっくり読むことができました。
真琴さん mimさんをはじめ いろいろなかたがたのコメントと花かんざしさんのお返事に沢山沢山輝いていた「きらりと光る表現」をたっぷり味わいたかったからです。
これからもかみしめながら何度も読ませていただきます。ありがとうございました。

吹替で一通り見たら 以前とは違うことを感じたこと多々ありました。このドラマほど吹替を歓迎したものはありません。
どうしてそういう言動をしたの??という脚本への違和感や疑問も 吹替で見て いくつか納得できた箇所がありました。
各場面での声優さんたちの声色の使い方・役柄解釈も 元の役者さんたちからのイメージや 物語の流れの中での位置づけを 決して損なうものではなく いい出来だったと思えました。
吹替版でこんなに満足したことからすると これまで見てきた数々の字幕版ドラマ・・・もしかするとオリジナル台詞から得られたはずの感動 韓国の方が味わったはずの感動の 3分の1くらいしか 得てきてなかったのかもしれない・・と 残念感・危機感を覚えました。
とすると・・・ これまでは敬遠していた ドラマの小説本で 本来の台詞を味わっておくことも大事なのかもしれませんね。
by ppyy (2009-11-05 09:39) 

花かんざし

ppyyさん、こんにちは♪
コメントありがとうございます。

「ガチョウの夢」のシーン、撮影場としては最悪の環境だったかもしれませんが、たくさんの思い出が詰まった場所だったでしょう。そして実際に撤収する時はきっと皆寂しい気持ちだったことでしょうね~。

韓国ドラマの特徴の一つがすぐに撮って、すぐに放送する部分だと思いますが、私もこのような撮影システムを始めて知った時は信じられない気持ちでした。
ベバは他のドラマよりは比較的余裕あるスケジュールで撮影を進められたようですが、それでも撮影期間中は徹夜続きだったのですね~。
ドラマ撮影のご経験が初めてのソ・ヒテ教授からすると全てが驚きの連続だったようですね。

完璧主義の監督の作品なので、なんでもない風景にさえ何か意味が込められているのでは?とついつい深読みしがちな私です。
ストーリーの面白さや俳優の熱演、選曲された音楽だけでなく、美しい名シーンの数々も印象的なドラマ。
特に17話のマエとルミの手のシーンなんて
本当に素敵でした^^
by 花かんざし (2009-11-05 15:13) 

花かんざし

ppyyさん、たくさんコメントを寄せていただきありがとうございます。
そして、ブログ記事もたくさん目を通して下さりありがとうございます。
気がつけばブログ全体で100記事以上も書いているのですが、読んでくださる方がいらっしゃると思うと励みになります。これからも頑張ります!

レンタル版、最後までご覧になったのですね~。
私も早く見ないと!

仰るとおり、私もこのドラマを見て、吹替えで得られる言葉の奥深さに気が付きました。
台詞がポンポン飛び交ううちにだんだん感情的になって気持ちが変化したり、一つの言葉にカチン!と来て不機嫌になる部分などは、声優さんの声のトーンや緩急のつけ方で表現されますが、そんな部分がこのドラマの対話シーンなどで、特に有効に働いたように思います。

本当は、字幕に頼らず視聴できれば一番いいのですが。そこまでの道のりは遠いですし…
ドラマを極めるには、吹替え、字幕の両方を見るのもいい方法かもしれませんね。さらに小説本まで読めば完璧ドラマ通ですね♪

by 花かんざし (2009-11-05 15:15) 

すーにゃん

花かんざしさん はじめまして

イ・ジェギュ監督について知りたくて、こちらにたどりつきました。
イ・ジェギュ監督は、現在初時代劇映画「逆鱗」の撮影中ですが、こちらの記事を読ませていただき、厳しい中にも、とても温かく、人間味あふれるお方ということを知りました。

わたしは、「逆鱗」主演のヒョンビンさんのファンですが、ベートーベン・ウィルス~愛と情熱のシンフォニー~のファンとしてもこの記事はとても嬉しく感動しました。トラックバックを貼らせていただいきたいのでよろしくお願いいたします。
花かんざしさんの翻訳もとても分かりやすくてすばらしいです。



by すーにゃん (2014-01-24 01:31) 

花かんざし

すーにゃんさん、はじめまして!
コメントありがとうございます♪

私も本当に久しぶりにこの記事を読み返してとっても懐かしい気分です~
同時に下手な日本語訳にちょっと恥ずかしい気もしてます~

たまたま先日イ・ジェギュ監督のTweetで映画「逆鱗」のことを知ったばかりだったのですが、こうしてヒョンビンさんのファンであり、ドラマ「ベートーヴェン・ウィルス」のファンでいらっしゃるすーにゃんさんからコメントを頂いて本当に嬉しいです~ 

映画は5月公開だそうですが、既に予告編が公開されたようで。
大好きなドラマ「茶母」(チェオクの剣)の監督の映画作品ですから、話を聞いて私もとっても楽しみになってきました~^^

記事をご紹介いただきありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いいたします~♪

by 花かんざし (2014-01-24 22:11) 

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