SSブログ

孤将 【原題:칼의노래 カレノレ(刀の詩)】 [読書]

孤将 (新潮文庫)

孤将 (新潮文庫)

  • 作者: 金 薫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/09/30
  • メディア: 文庫

韓国の歴史上もっとも有名な人物の一人である李舜臣の物語。「日本軍を叩きのめす李舜臣将軍の戦いぶりが、賛辞の中に叙述される定番の歴史・戦争ものかと思いきや、その予想は全く外れた。」と訳者あとがきにもあるとおり、英雄とは程遠い、孤独の中で闘う李舜臣の生身の姿が描かれていた。
韓国KBS大河ドラマ「不滅の李舜臣」の共同原作の一つでもある作品。
図書館でハードカバーを借りた後も、また読み返したくなり、結局文庫本を購入したという、めったに本を購入しない私としては珍しく心に残った作品。

李舜臣の生涯については、韓国人なら誰でも知っている話かもしれないが、初めての私にとっては、一人称形式で綴られ、しかも時間が前後する話になかなかついていけなかった。二度ほどそのまま素読みした後は、年号や新しい登場人物、新しい地名が出るたびに、巻末の「李舜臣の年譜」と「人物史」そして巻頭の「略地図」を参照しながら読み進めた。

李舜臣の名を知らしめた「文禄・慶長の役(壬辰倭乱)」については、韓国の歴史ドラマ中にも、日本の歴史小説、大河ドラマなどにも度々登場する出来事で、先日読んだ火坂雅志著「天地人」にも書かれていたが、本当に胸が痛くなる出来事だ。
十年位前に、私はかつて日本軍の前線基地でもあった佐賀県の名護屋城跡を訪れたことがある。遠くに壱岐島が見え、空気の澄んだ日には対馬も見えるという。ここから多くの日本兵が朝鮮半島へ向かったのだが、本当の所どんな気持ちで海を越えて行ったのか。

その日本兵を迎え撃つ李舜臣の心中がこの小説に書かれていた。
悪夢にうなされ汗びっしょりになって目覚める姿、夜中に鼻血が止まらない姿、冤罪で受けた身体の痛み、息子と母を亡くした悲しみ…そして様々な匂いの記憶。そんな当人でなければ分からない内面を見事に描き出していた。

日本人ならどうしても気になる日本兵の描き方も予想とは大きく異なり、実体が掴めないまま、襲ってくる敵をただ迎え撃つまで、というものだった。
ただ、息子が殺された牙山作戦にいた日本兵に対しては、「刀の泣き声」と言う表現を用いて、複雑で微妙な心理が書かれていた。

また、李舜臣といえば「亀甲船」だが、最初読んだときにはどこに出てきたのか全く気がつかないくらいで、注意深く読んで、やっと本文中に二度ほど「亀甲船」という具体的な名称が見つかった。結局、李舜臣は亀甲船によって勝利したのではなく、潮の流れをうまく利用した陣形と戦術が特に優れていたということがわかった。
戦いの勇ましい場面だけでなく、戦いの後の生き地獄のような悲惨な有様、そんな中でも作物を育てたり、船を作ったり、生きるために必要なことを指示する姿も描かれていた。さらに、統制のために厳しい処分をすることも。

王は遠く離れた所にいて、良い報告だけを待っているだけ。明の援軍も遠巻きに見ているだけ。常に孤立無援の状態でいつ襲ってくるかもしれない敵と戦っていた。
明の援軍がやっと動いたのは秀吉の死後だった。李舜臣はそんな重要な情報も知らないまま戦いを続けていたのだ。そしてこのまま戦が終わってしまう虚しさが最期の露梁海戦へ繋がっていく。

「これより死することを望む。されど仇だけは討たせていただきたい。」(本文より抜粋)

そして望みどおり壮絶な死を遂げた。

読み終わって、大きく息を吐いた。この作品の著者である金薫は李舜臣の生き様と自分の人生を重ね合わせながら書いたそうだが、「孤将」という日本語の題名を付けた訳者にとっても自身の人生と重なる部分が多かったのではないだろうか。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 0

nice!の受付は締め切りました

コメント 0

コメントの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。